CONNECT展は、2016年のスタジオ’Sリニューアルオープン以来、毎年開催してまいりましたが、2020年と2021年はコロナ禍により開催を見合わせていました。
3年ぶり6回目の開催となる本展「CONNECT展Ⅵ」では、従来開催していたアーティストトークは残念ながら見合わせとなりましたが、出品作家の皆さまのコメントをご紹介いたします。
草野 剛 《文心雕龍語》 ― 筑波大学芸術賞(卒業研究)
卒業論文では、近世中国の浙江地域で活躍した浙派(せっぱ)印人の一人、銭松に焦点を当てましたが、篆刻流派の浙派全体に専ら関心を持って取り組んでいます。
浙派の始祖、丁敬(ていけい)は「古人の篆刻は独自の道を行こうとした」と述べて、当時の時流からの脱却を主張し、文字学と芸術としての篆刻の分離も説いています。こうした思想のもとに、多くの作風の長所を取り入れたことで、彼は進んで個性のある作風を残すことができたのでしょう。
本作は、丁敬のこのような理論の実践を念頭に、春秋戦国時代から清代までの印章や近代日本の印人の作風に倣い、鳥蟲篆(ちょうちゅうてん)や隷書、楷書といった他書体を交えて制作しました。
浜野 那緒 《How to Wrap Five Eggs by Insects》 ― 筑波大学芸術賞(卒業研究)
本作品は虫の巣から着想を得た卵のパッケージデザインです。虫の巣は虫による「包む」行為であり、自然界におけるパッケージデザインの手法と知恵だと捉えました。このことから、虫の巣が持つ3つの「省」がつく優れたデザイン(省エネルギー・省資源・省スペース)をパッケージ取り入れました。6種全てにおいてスタッキングあるいは連結ができること、過剰な要素を用いず最小手数で生まれるカタチの設計を考えました。生き延びるための節約が最適なカタチをデザインすることを本作品から感じ取ってもらえると幸いです。
藤田 悠希 《屋彩》 ― 茗溪会賞(卒業研究)
「屋彩」は、“部屋を彩る野菜”という意を持ち、野菜の様式化による新ライフスタイル装飾の展開を意図した作品です。実際の生活空間に飾れる作品を提案することで鑑賞者が芸術をより身近なものとして感じることができるのではないかと考え、制作しました。
モチーフの野菜は、観て、触って、調理して、食べて、私が感じ取った“それぞれの野菜らしさ”を質感・色味・かたちとして切り取り、自身の表現へと昇華しました。実際の使用例や展開方法は紙面で提示しています。お手にとってご覧いただければ幸いです。
制作では、陶芸の基礎的な成形方法である、手捻り・板作り・型成形・切り出しの技法から生まれるかたちと色化粧・釉薬・上絵付けの装飾技法による陶芸ならではの質感と色味を組み合わせ、陶の持つ柔軟な素材性を魅せられる様に心がけています。
影山 亜美 《八百万の神》 ― 筑波大学芸術賞(修了研究)
日本の神話「古事記」をテーマとした陶の作品です。目に見えない神様を、古事記のストーリーや神様の特徴から自分なりにキャラクター化しました。100柱以上の神様をキャラクター化し、100体の作品を作り上げたのは大変な事でしたが、一体一体心を込めて丁寧に作りました。愛着が湧き大学に寄贈するのが心苦しかったほどです。
作品のポイントは2つあります。1つ目は神様一つ一つの造形です。対象となる神様の「らしさ」を大事にし、作者だけでなく鑑賞者にも共感してもらえるように作ったことです。2つ目は「一つ目」です。顔のパーツでも最も印象的といっていい「目」で、つい見てしまうインパクトを出しました。また生命とは違う神様という存在を、一つ目という異様さで表現しました。
今回の展示では100体のうち大学に寄贈した20体です。是非それぞれのベスト神様を見つけてみてください。
有賀 睦 《眼差しa》《眼差しb》 ― 筑波大学芸術賞(修了研究)
「眼差しa」
私はこれまで人体をモチーフに思念の表現を試みてきた。表現にあたって、手の皺や皮膚の細かな凹凸といった人体の一部の描写に注力し、表情や頭髪を取り払って描くことで人物の匿名性を高めた。また、それらの要素を何気ないポーズの中に描くことによって、見る者や制作者自身が人物の内面に注目できるようにすることを目標としてきた。本作品は、匿名の人物の描写にジャン・ジャンセン(1920-2013)の絵画表現からヒントを得ることができないかと考え、これまで行ってきた皮膚表面の凹凸の表現に加え、ジャンセンの作品にみられる影と明部を筆致によって段階的に繋げる手法を人体表現に取り入れようと試みた。人体のもつ明暗を細かな筆致による皮膚の表現によって段階的に繋げることで、人物の持つ立体感の再現と臨場感の表現をめざすとともに、制作者自身や鑑賞者の知覚・経験から普遍的な想起をもたらす装置としての表現を図った。
「眼差しb」
『眼差しa』と対になる作品を目指した。同様の技法や描写によって描かれたものが複数あることで、名もなき人物たちの集合であるところの現実の世界を表現したいという試みである。『眼差しa』と対とするにあたり、『眼差しa』に施した手の皺や指先の皮膚の細かな凹凸の描写を人物の頭髪に施し、頭髪以下の顔立ちといった個人に特有の要素が現れないよう注意し描写した。人物から下部を黒い影で覆ったのは人物の横たわる床面の表現であるとともに、人物との境界を不明瞭にし人物と不可分である思念との関連を表現した。
人物のポーズに関して、『眼差しa』『眼差しb』ともに座る、横たわるといった休息の場面をモチーフにしている。休息を描くことでそれと対になる労働・生活・思考といった人間の活動を想起させるためである。
最上 健 《進化と朽滅》 ― 茗溪会賞(修了研究)
精神や社会構造、科学技術等の人間の営みが進化する事と朽滅がテーマです。科学技術は驚くべき速さで発達していますが、環境破壊による気候変動や格差の拡大、戦争、食糧危機、パンデミックなど問題は山積みです。女性像は普遍的な人間の姿を、なびく髪は科学技術の発達を表しています。しかし、顔(精神、社会構造)は髪のなびく先とは別の方向を向き、人間のコントロールを超える技術の発達に追いつけていない様子で、足元からは朽滅が迫っています。
制作では、全体の流れを重視しながら構造を考え、そこに頭にあったテーマの一つを当てはめて細部を決定しました。いろいろな人に助けられながら、一人ではできなかったであろう作品です。
朽滅部分には鉈彫と呼ばれる技法を用い、木の質感を生かす為に日本画材で彩色しました。
人類の進化は朽滅に追いつかれることなく、逃れられるのでしょうか?自戒を込めた作品です。
作家の皆さま、コメントのご提供ありがとうございました。
CONNECT展Ⅵは6月16日(木)まで開催いたします。ぜひご来場ください。
CONNECT展Ⅵ
会期) 令和4年6月5日(日)~16日(木)
会場) スタジオ’S
茨城県つくば市二の宮1-23-6 (関彰商事株式会社 つくば本社敷地内)
時間) 10:00~17:00 入場料無料 無料駐車場あり