「作品所感」は、スタジオで展示中の作家、ゲスト、コーディネーター等が展覧会について語るコラムです。
今回はインタビュー形式で作家の野一色優美さんにお話をうかがいます。
野一色 優美
Yumi Noishiki
筑波大学大学院 日本画領域 博士前期課程 在籍
──日本画をはじめたきっかけ、また大学・大学院で日本画を学ぼうと考えたきっかけなどありましたら教えてください。
日本画を始めたきっかけは、美術系高等学校の頃に箔や岩絵具に触れたことです。
その当時、実習室に銀箔や金箔など沢山の種類の箔があったり、キラキラした絵の具が瓶に詰められていたりするのを見て、自分の絵にも使ってみたらどうなるのだろうという興味と好奇心で日本画を始めて、大学以降も日本画専攻で進みました。
──大学や大学院ではどのようなことを研究されていますか。
自分の表現したい内容に合わせて、主に麻紙と岩絵具などを使用しながら不定形の基底材での表現を研究しています。
今まで主に人物画を主題に制作を続けていましたが、人物を描いていく過程で、人物そのものが描きたいのではなく、人の持つ想いの揺らぎや記憶を基に日本画を捉えてみたいと思ってからは、様々な作品形態を制作しています。
──作品制作において大事にしていることはなんですか。
作品制作では制作したい内容と表現方法が合っているかどうかを大事にしています。
私の場合、もともと日本画材を使用しながら人物を描いていました。今でも人物を描くことは好きですが、その好きに偏ることのないように、なぜ人物を主題に取り上げるのか、人物を通して何を伝えたいのかを、その都度表現内容と表現方法を考え直しています。
──ご自身で感じている「作品制作の魅力」を教えてください。
前述に関連しますが、作品制作を重ねて自分の中での表現方法がアップデートされていくことが、創造していくことの難しさでもあり魅力でもあると感じています。
特に日本画材で使用する麻紙のにじみ加減や岩絵具の扱い方などは奥が深く、知識と経験を重ねていかなければなりません。それでも自分の思ったようにコントロールができないこともたくさんありますが、そこが作品制作の面白さでもあると思います。
──今回の展示に先立ち、1か月ほどスタジオ’Sで展示準備をされていました。使ってみた印象はいかがでしょうか。
スタジオ’Sでは1か月制作を行いながら、展示に向けて設営を進めていました。
普段の展示だと中々設営に時間をかけることができないですが、滞在制作が可能だと、実際の作品のスケール感や印象を現場の様子に合わせながら制作を進めることができます。今回の滞在制作期間があったからこそ、中々普段制作することのできない作品も展開できたように思います。
──今回の展示で見てほしいポイントなど教えてください。
作品全体を通して、人という対象の存在が無くても、人の持つ内奥性や記憶といったものから存在を感じていただければと思います。
また作品それぞれの展示方法についてもご高覧頂けますと幸いです。
作品解説(展示作品から)
≪孤立の風景≫(2024)
サイズ可変、ミクストメディア
この作品では、経験や事象を通して得た想いや印象といった記憶が時間経過により希薄になっていき、経験した本人と記憶が分断され、ただ想いだけが取り残された感覚を表現しています。
例えば自らが死に直面するような出来事、或いはそれに近い体験があったとしても、そのときに感じた不安や葛藤は、後々にはどこか他人事のように思えてくるようなことがあります。
このようにトラウマだけが残りながら記憶がだんだんと孤立していく様子を、浮遊していくような1つの風景として表現しました。
また他の作品では、そうした感覚が自分自身でさえも掴めない感覚や、物語として語り継いでいく様子を表現しています。
──お話しいただき、ありがとうございました!
野一色優美 個展 「孤立の風景」
会 期) 令和6年5月17日(金)~26日(日)
会 場) スタジオ’S
茨城県つくば市二の宮1-23-6 (関彰商事株式会社 つくば本社敷地内)
開 館 時 間) 【全日】 11:00~17:00
入 場 料) 無料