「作品所感」は、スタジオで展示中の作家、ゲスト、コーディネーター等が展覧会について語るコラムです。
今回はインタビュー形式で「積羽展」の作家のお二人にお話をうかがいます。このページでは小林佑太郎さんのインタビューをご紹介します。
佐藤汰一さんのインタビューはこちら
小林 佑太郎
Yutaro Kobayashi
──書をはじめたきっかけ、また大学で書を学ぼうと考えたきっかけなどありましたら教えてください。
実は、左利きなんです。左利きを矯正するために、小学1年生のときから習字教室に通い始めました。筆、ペンは右手で書くようになりましたが、それ以外は左利きのままです。
その後、高校で書道の先生に声をかけられたことが大学で書を学ぼうと考えるようになったきっかけです。高校2年生の春に、所属していた音楽部の看板を筆で書いたところ、たまたま、赴任してきたばかりの書道の先生の目に留まり、書道の活動しない?とお声がけいただきました。それから半年ほどで書道パフォーマンスや書道同好会の立ち上げなど、さまざまな経験をしました。当初は生命環境系の進路を志望していましたが、この半年を経て、書という学びたいものが見つかり、高校2年生の冬に進路を変える決心をしました。ちなみに、どうして筑波大学にしたのかというと、もともと筑波大学の生命環境学群を志望していたからです(笑)。
──筑波大学ではどのようなことを研究されていましたか。
平安時代の能筆である世尊寺家三代伊房と五代定信の書の類似性について考察をしました。両者は、歴代の世尊寺家と比較して、特に似ているとされており、それを現存している真跡を比較することで検証を試みました。
──仮名・漢字・篆刻、また書体もさまざまありますがどういった制作がお好き(得意)ですか。
作品をご覧いただくとお分かりになるかと思いますが、自分は神経質な線を出してしまうことが多いので、それが生かせる仮名や楷書が好きです。ただ、さまざまな書体を書くことも好きなので、楷書や隷書のような動きの少ない作品をずっと書いているとムズムズしてきて、さらさら書ける行書や草書の作品が書きたい!と思ったりすることもあります。
──ご自身で感じている「書の魅力」はなんですか。
書の魅力はたくさんありますが、一番に思い浮かぶ魅力は、瞬間を切り取ることができるところです。洋画や日本画などと異なり、書の線は基本的に重ねることがありません。すなわち、線を引いたその瞬間が切り取られて、作品の一部になるということです。そのため、同じ人が同じ文字を書いても、同じ線が表れることもありません。自分は、その瞬間性におもしろさを感じます。しかしそれゆえに、一枚のなかでも良い瞬間と悪い瞬間が出来てしまい、この文字は一枚目がいいけど、あの文字は二枚目がいいというジレンマが起こります。書を続ける限り、いつまでも向き合わなければならない課題ですね。
──今回の展示で見てほしいポイントなど教えてください。
初めて書に触れる人でも楽しんでいただけるよう、さまざまな書体の作品をつくるように心掛けました。見慣れている楷書や行書だけでなく、篆書や仮名にも触れていただいて、読めなくても何かしらを感じ取っていただけるとうれしいです。
また、それぞれの作品は、表装にもこだわっているものが多いので、軸装、額装、パネルなど、文字以外の部分にもご注目いただきたいです。
作品解説(展示作品より)
作品「ゆかり」
万葉集の東歌(あずまうた)より、つくばの歌(右)としもつけの歌(左)を書きました。どちらもゆかりのある場所で、一度は作品にしたいと考えていました。二つの場所で行う展示ということで、ここでつくるしかない!との想いで制作しました。
東歌とは、地方の方言で読まれた和歌のことで、地方の素朴さとその歌の持つ寂しい心情を表現できるよう努めました。また、布地と呼応する軸先の色など、表装にもご注目いただきたい作品です。
──お話しいただき、ありがとうございました!
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「積羽展」(書二人展)
会 期) 令和5年2月21日(火)~3月5日(日)
会 場) スタジオ’S
茨城県つくば市二の宮1-23-6 (関彰商事株式会社 つくば本社敷地内)
時 間) 9:00~17:00 入場料無料 無料駐車場あり